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「ユーフェミア、最近随分と頑張っているようだな」 コーネリアは、誇らしげに言った。 ここはユーフェミアの執務室。 政務の合間に、少しでも学ばなければと分厚い本を開いていた所だった。 細かな文字がぎっしりと書かれたその本は、文字を目で追うのも辛く、どうしても目が滑ってしまう。しかも内容が難しすぎて理解できず、頭が痛くなる。それでも頑張らねばと、睨みつけるように文字を追っていたら、姉であるコーネリアがやってきたのだ。 「お姉さま、どうかされたのですか?」 今日来ると聞いていなかったユーフェミアは慌てて席を立った。 そのままでいいと、コーネリアは慈愛に満ちた笑みを浮かべながら近づいてくる。 「お前に副総督としての自覚が芽生え、勉学に勤しんでいると聞いてな」 総督であるコーネリアは、毎日忙しく動き回っている。 一昨日はキュウシュウ方面に向かい、今日はトウキョウを通り過ぎアオモリに行く予定だったが、妹の頑張る姿を一目見たいと一度政庁に戻ってきたのだという。 副総督としての自覚と言う言葉で、姉にさえ副総督としての自覚が、知識が足りないと思われていたことが解り、ユーフェミアは僅かに表情を曇らせた。 誰も何も言わなかったが、きっと皆がそう思っていたのだろう。 「枢木はどうした?」 「スザクは学園の方へ行っています」 「ああ、学園に通わせているんだったか・・・騎士が主のもとを離れるなど・・・」 「私が、そう命じたのです。私の騎士となったからには、今まで以上に勉学にも力を入れ、心身ともに私に相応しい騎士となってほしいと思っています。せめて高校は優秀な成績で卒業して欲しいと思っています」 コーネリアの対処方法は事前にルルーシュから教え込まれていたため、ユーフェミアは胸を張り淀みなくスラスラと答えた。 いままでならこのような質問に戸惑っていたユーフェミアが、自分の意志をまっすぐ伝えてきたことにコーネリアは感心し、数日見ない間にここまで成長するとはと驚いたが、同時に不安になった。 「・・・ユフィ、根を詰めて学んでも碌な成果は出ない。しっかりと休息をとる事だ。それに独学では何かと大変だろう、家庭教師を用意しよう」 有能な家庭教師を探し、ユーフェミアにと考え始めたコーネリアを慌てて止めた。 「いえ、家庭教師はいりません。勉強に関しては、私の自由にさせてください」 きっぱりと、姉の言葉を否定し自分の意見を言い切ったユーフェミアに、コーネリアは少し寂しい思いはしたが、いい傾向だと考えることにし、頷いた。 自分なりの勉強法を見つけた事で成長した可能性もある。 余計な手出しはすべきではない・・・が。 「・・・そうか。だが、必要なら何時でも言うように。最高の家庭教師を用意しよう」 「はい、その時はお姉さまに相談いたします」 その後、短い会話を交わし、コーネリアは政庁を後にした。 姉が退室し、ユーフェミアは安堵の息を吐いた。 ユーフェミアの教師はルルーシュだ。 この分厚い本も、ルルーシュの言われ目を通しているものだった。 それなのに、家庭教師を用意されたら面倒なことになってしまう。 ・・・だが、コーネリアが選ぶ家庭教師なら、もっと簡単にヒントや答えを教えてくれるのではと頭をよぎったが、すぐに頭を振りその考えを消し去った。 今は楽をすべき時ではない、ルルーシュに褒めてもらうために、ナナリーに姉として認めてもらうためにも頑張らなければ。 スザクに、騎士になってよかったと思われるような主にならなければ。 それに、皇帝となるならば、自分で考える力も必要となるだろう。 「スザク、私は頑張ります!」 貴方の目指す平和な世界、それを実現するためにも。 よし、と気合を入れて、再び本に目を通した。 「るる~しゅ~」 「だめだ。それがおわるまで きゅうけいは なしだ」 ルルーシュの部屋で、スザクはテーブルに突っ伏していた。 テーブルの上には、教科書とノート、そしてテスト用紙。 今日の授業を終えたスザクは、クラブハウスに泊まるように言われ、ルルーシュとのんびり過ごせる!と喜んで来たが、待っていたのは大量のテスト(ルルーシュ作)で、すでに2時間問題と向き合っている。 いつものスザクならもう少し頑張れるはずなのだが、今日はC.C.がベッドでゴロゴロしているため、やる気が失せてしまっているらしい。 ルルーシュは小さな手を一生懸命動かしてキーボードを打ち、ユーフェミアが読んでいるだろう分厚い専門書に関する資料を作成していた。あれを読んだ所でどうせユフィには理解できない。だが、あの手の文章に目を通せるようになってもらわなければ話にならない。だが理解できなければ意味がないから、その内容をわかりやすく解説した資料を様子を見ながら与えるのだという。 かたかたかたと、小さな手で時間をかけながら作業をしているルルーシュがいるため、スザクはテスト地獄から逃げるわけにもいかない。が、一度休憩してルルーシュを構い倒して癒やされたい。 だが、その思いは全然届いてくれず、とうとうスザクは突っ伏したまま動かなくなってしまった。 「すざく」 仕方ない、休憩させるかとルルーシュが口を開いた時。 「枢木スザク、それを片付けたら、休憩がてらルルーシュと風呂に入って来い」 「イエス、マイロード!」 跳ねるように体を起こしたスザクは、今までのだらけた態度はどこへやら、再び問題に取りかかりはじめた。教科書を開き、辞書を開き、真剣な顔で手を動かす。 「そうか、ふろに はいりたかったのか」 今日は暑かったからな。と、ルルーシュは見当違いな事を言った。 黒の騎士団の秘密のアジト。 今ここに来ることができる人間は限られていた。 首魁であるゼロ。 愛人であるC.C.。 奇跡の藤堂と四聖剣。 幹部である玉城。 科学者のラクシャータとそのチーム。 世話係のカレンの母。 幼児化した幹部たち。 そして、敵であるはずのスザク。 それ以外の人間は、立ち入るどころかこの場所を知らないはずだった。 もし知られていたとしても・・・この人物がこの場所に来ることなど、絶対に有り得ないことだった。 藤堂と四聖剣、そして玉城に囲まれたその人物は、恐怖を、不安を感じる素振りなどなく、むしろその顔には笑みを浮かべていた。 「私は争いに来たわけではない、ゼロに会わせてくれないかな?」 それは、ブリタニア帝国宰相シュナイゼルだった |